zabitaroのブログ

まじでありのまま

小児科の学生実習

 小児科での学生実習をつい先日終えた。

1ヶ月ある実習のうち、前半は大学病院、後半はいくつかの選択肢の中から好きな市中病院を選ぶことができるのだが、後半の病院実習では得たものが大きかった。

僕が後半で伺った病院は、県の端っこにある過疎化が進んだ町の病院なのだが、周辺の町からも患者さんが多く来院され、地域の中核を担っていた。

140床ほどの総合病院で、海から100メートルも離れていないため病棟からオーシャンブルーの海が見える。

職員さん・患者さんともに朗らかな方が多く、明るく素敵な雰囲気の病院だった。

 

大学病院で小児科を回らせていただいたこともあったが、その時は小児の白血病や脳腫瘍といった、重篤で専門的な疾患の患者さんが多いことや、医師一人当たりが担当している患者数が多かったこともあり、とにかく先生方は必死に走り回っておられた印象を受けた。 

一方で、今回の病院は入院患者が二人程度であり、日々の業務は外来メインであったこともあり、比較的時間がゆっくりと流れており、外来に同席させていただいた僕に先生も沢山お話下さった。

 

大学には、診断名がある程度ついている希少疾患・専門疾患の患者さんが多く来られるため、外来といっても専門外来となる。一般的な開業医の小児科の先生が見られるような咽頭炎や胃腸炎などではなく、白血病のアフターフォローや筋ジストロフィーの方などを見せていただいた。この専門外来も、教科書で習ったような特徴的な希少疾患を実際に勉強させていただくことができる良い機会ではあったのだが、同時に、一般的な大多数の小児科医が行っているような小児科診療が見てみたいと強く感じた。

 

そこで、後半は前述の病院に伺おうと思った。さらに、山・川・海が好きな自分にとってそれらを満喫できるのならば、最高ではないかと思い選択した。

病院があるのは海沿いの町なのだが、陸から急峻な山が覆い被さるように迫ってきている独特の地形であり、古くから一大聖地とされている神社が山の中にある。町には巨大な奇岩があり、神様と祀られており、年数回ある祭事で巫女様が奇岩の元で美しい神楽を舞う。晴れの日は、海沿いをドライブすると本当に気持ちがいい。一本道が果てしなく続いていて、海に目を投じると空の青と海の青が溶け合っているように感じられる。雨の日は、それはそれで趣あふれる。霧が険しい山々を包み込んで、深緑の森の主張が強くなり、あぁここには神様が住んでいるのだと、不思議と納得してしまうような空気感が広がっている。

 

ただ、この町は都会からかなり離れているため、過疎化が進んでおり、小児科にかかる患者数はかなり少ないだろうと想定していたが、実際、かなり患者数は多かったし、疾患も恐らく大都会の小児科病院と変わらないと思われた。

8割がアレルギー・アトピー咽頭痛・発熱であった。

大学病院がある場所とはかなり気候や地域特性が違うが、たまにマムシに噛まれてくる患者さんがいるくらいで、診るべき疾患はほとんど変わらないことに驚いた。

ただ、大学と違うのは、診断があらかじめなされていない患者さんがほとんどだということだ。

概ね、ただの風邪やアレルギーなどであるが、時に極めて重要な疾患を抱えた患者さんが来院される。

僕が二週間いる間に、外来で来院された方が一人、川崎病と診断された。

 

川崎病は、原因不明の全身性の炎症疾患であり、最も注意すべき症状として、冠動脈瘤がある。

川崎病を引き起こす機序が不明ということから、病気が引き起こす症状から定義されている。

ざっくりと言うと、発熱・発疹・目が赤くなる・苺のような舌・手足の腫れ・首のリンパ節の腫れの6症状のうち、5つ満たしていれば川崎病となる。

ただ、必ずしも5つ満たさず不全型川崎病と診断される場合がある。不全型川崎病でも心臓に障害を起こす確率は典型の川崎病と同じなのである。さらに、発症5病日以内に治療しないと冠動脈瘤ができやすくなるなどの特徴もあり、外来の場で鑑別できるかどうかは非常に重要なのだ。

 

今回はこの条件のうち2つしか満たしていないにもかかわらず、頭部CTで出た咽頭の所見が川崎病ぽいという理由で、入院となった。

初め僕は疑っていたのだが、数日して見事的中した。

川崎病症状が出だして、ベストタイミングで治療に踏み切ることができたのだ。

本格的に症状が出る前に、川崎病と判断した先生の内科医としての有能さに感動した。

ただ闇雲にガイドラインに従うだけではなく、さまざまな文献や実際の診断経験を通してその病気を熟知して、その病気の雰囲気を知っておくことが重要だと気付かされた。

その際には、できるだけ思考の足がかりを作る必要がある。もちろん鑑別が急がれる疾患は川崎病だけではないが、複数の疾患を想定して、それぞれの差異を浮き彫りにするにはどのような問診・身体所見・検査を行えばいいのかを理解しておく必要がある。

要は、どれだけの物差しを用意して考察できるのかである。

先生はその物差しをしっかり用意していたため、普通見逃してしまうような画像所見から川崎病と確信することができたのである。

 

地域の病院で外来を見学させていただいたが、全身の疾患が来るため、勉強する分野の幅が広くて充実していた。

先天性の疾患、神経疾患のてんかん、胃腸炎、多様なアレルギー、成長障害など多岐に渡っていて、別個の分野として勉強していた疾患が横につながったような感じがした。

それに、学校や家庭での相談なども多く持ちかけられるのは、地域に根ざした病院特有だった。

そういった悩みにも答えていくような、人間的な診療がなされていて素敵だった。

 

小児科医は全身の疾患を診る必要があるため、頭の回転が早く賢い先生が多い印象を受けた。

実習を通して側でその思考法の一端に触れられたのは貴重だった。

そして何より、子供が可愛いく、実習中癒された。